昨日は、沢がしたいです!と入会希望で来てくれた人へロープワークを教える約束になっていた。
初心者にロープワークを教えるときはできるだけ現実味がある環境がほしい。
うーん…と考えた末、ICIで待ち合わせし、近所の公園へ。公園には、ラッキーなことに子供を連れたママさんたちは誰もおらず、遠くのベンチに一人おじいさんが座っているだけだった。
さっそく、適当な立木エリアを見つけ、そこをリードしてもらう・・・
「ここは平坦だけれども、すごく急で立木でやっと支点が取れる、と思ってね」
「じゃ、この先、いくつ支点がある?」
「5つ」
「じゃ、ギアはいくついる?」
「あ!そうか!」(ごそごそ)
「私はここでビレイしているとするね、じゃ1ピン目取って。さ、リードしていいよ」
二重でタイオフされている例 これは中間支点ではない。 中間支点には環付ビナは使わない |
この方法にしたのは、私自身が講習会で先生について教わった時、どうすればいいのかを分かるようになったのは、簡単ではあってもリードをしてみること、だったからだ。
彼女は、アルパイン指向の人だったので、最初は普通にスリングが付いている、ぬんちゃくじゃなくて、アルパインぬんちゃくのセットを購入しようとしていたくらいだ。だからスリングは一杯持っているのだが、ラッキングが悪いので、すぐに取り出せない・・・。あたふた、あたふた。
最初に立木に1ピン目を取と、タイオフに安全環付カラビナを掛けている。普通は中間支点には安環付は使わないのだが、あとで話をすることにして、5本支点を作り、最後のアンカー作りまでやってもらう。
これをしようと思ったのは、
・登り出す前ににギアを確認する、ということと、
・歩ける所でこんなに大変なのに、怖いところを登っていたら、もっと大変だろうということ、
を分かってもらいたかったからだ。
■ 経験とは何か?
アンカーにきた。
「あ!安全環付が足りない!」
「そうね。ということは?」
「さっき、あそこで使わないでおけば良かった!」
「うん、そういうこと。よく”経験”って言うけれど、”経験”の中身はつまりこういうことなの。」
まずは、恥ずかしい失敗は、”しても問題ないところ”で、いっぱいしておくのが重要だ。
その後、ロープを付けてリードし、セカンドの確保支点を作ってもらった。まだセカンドの確保支点やコールは分かっていないようだった。
前回は、リード・フォローと懸垂下降まで教えたから、セカンドの確保も教えてはいるハズだが、記憶にないらしいのは、やっぱり、前回はアップアップだったのだろう・・・。
私もセカンドの支点作成は、山に登っていてもやらないせいで忘れがちだった。確実に自信がつくのに1年くらいはかかった。だから、2回目で何も知らないのと同じ状態なのは、不思議なことではない。
■ どこまで言うか
私が悩むのは、どこまで細かいことを言うか。
この時は支点につけるタイオフで、ロープが屈曲しないよう、スリングの長さまでを計算して、スリングを選んで欲しかったが、そこは、タイオフするってことを思い出すだけで一杯な人には余分な情報かもしれないと思い、黙っておいた。
彼女は質問がとても多い。素晴らしいことだ。 でも、質問に全部答えていると、実践ができないで、全部話すだけで終わってしまいそうだ。それに一度に一杯おしえても覚えられないだろう。
スタカットのように、覚えることが多いときは、自分で体系立てて覚える気にならないと、本一冊全部口頭で教えられても、すべて流れていくだけで、覚えられない。
■ 宙吊り脱出
その後、本番の宙吊りの脱出。 これは、みなが楽しむところ。二つのプルージックを作って、腰と足に交互に体重を掛けて、ロープを攀じ登る。
これには公園の東屋を使った。 高さは2mくらいだが、怖くないのでこれで良い。
最初は2本束ねたロープを、スリングのプルージックで登ってもらう。
2度目は1本の回収可能なフィックスロープにし、ロープクランプ、簡易アセンダーを足の側につけて、登ってもらう。(本当は腰のほうが良いのだが、腰にすると降りるのに苦労するから)
■ ビレイヤーの自己脱出
これはリアルにどうしよう!!と焦ってもらうシーンだ。
これには2シチュエーション使った。東屋の柱で、ビレイヤーのセルフを取ってもらい、アンカーを作って、クライマー役の私が出発。 1ピン目を取り、墜落役。ロープにテンションがかかる。
そのテンションがかかった状態では、ビレイヤーは必死にビレイしている。ビレイしている制動手は手を離すことができない。さて、どうする?
頑張って、制動手を握ったまま、フリクションノットをテンションしているロープに作ろうとする彼女。
エライ!ちゃんとフリクションノットでテンション移動が必要だと分かっている。
でもとってもやりにくい。そこで、確保器を仮固定して、両手を手放しできるようにすることを教える。
私も講習会でやったが、こういうのって、ちょっとした具合でうまくいかないものだ。最初はミュールノットでやってみたが、ロープが細く出やすいので、結局、ぐるぐる巻き作戦に。
山岳総合センターの先生の時は、仮固定は、「なんでもいい」と言われ、あまりに初心者過ぎて「?」となった結びだった。 そもそも、エイトノットも初めて聞きました、って状態だったからなぁ~。
本結びもオーバーハンドノットも初めて聞く人に、なんでもいいと言われても、何でもいいって意味が良く分からなかったワタシだった・・・
つまり、”なんでもいい”は、仮固定なので、しばらくの時間止れば、名前があるちゃんとした結びでなくてもいいって意味です。
さて、フリクションノットを作って、テンション移動するときには、恐る恐る。テンション移動では、ぶら下がっている人は、かならず少し落ちる。
上手くテンション移動できたが、テンションがかかるアンカーが、ビレイヤーの彼女のセルフが取れているアンカーと同じ点で、スリングの輪が両方に引っ張られていたので、ビレイヤーがセルフを外したら、また少し落ちる。
ちょっと具合が悪いですね~ということで、次はジャングルジムへ移動し、アンカーとビレイヤーのセルフは別に採ってもらって、同じことをする。
2度もやったのは、この技術が必要になる可能性が一番高いからだ。
彼女は自分の娘さんと登りたいと言う希望があるので、娘さんや、連れて行ってくれる誰かと行くことになった場合、大抵は初心者はセカンド。
つまり、自分が墜落するより、リードの人が墜落して、それをどうにかしないといけないという立場に立つ可能性のほうが自分がリードする可能性より大きい。
だからセカンドの確保を覚えるより先に、ビレイヤーの自己脱出が確実になってもらうほうが、彼女には役立つ可能性は大きいはずだ。
■ 3分の1
次は3分の一システム。 最初にフィックスを彼女に作ってもらう。上手にクローブヒッチの固定をしていて、驚いた。普通の人は固定する方法を知らない。
フィックスを作ってから、3分の一を教える。フリクションノットとロープクランプバージョンで、やってもらった。
これはこんなに簡単なの~と驚いていた。もっと複雑なシステムをご所望だった(^^;)が、わたしが実用性がないと思って却下。3分の1が分かっていれば、同じ仕組みを増やすだけなので、自分でできるようにすぐなるからだ。
ケーブルシステムとか、レスキューで人気があるけれど、実際山で使うんだろうか?3分の1は、やって覚えておけば、タープやツエルトを張る時に役立つんだな(笑)。
山小屋でバイトしていたときは、洗濯紐を貼るのに役立ちました(笑)。
■ 懸垂
最後は、懸垂のおさらい。確保器のセットは良いようだった。
カラビナでの懸垂を教えて、肩がらみと腕での懸垂も教える。ギアがない時用。でも、予備知識にとどめた。というのは、上等の化繊の山ウエアを着ていたから。
ロープバーン・・・私はなんと、センターの講習でやったことがあるのだが、ホントに摩擦ってちょっとしたことですごく焼けるのだ。腕にみみずばれのようなロープバーンを作ったことがあった。
スタンディングアックスビレイの時もたしか安物ウエアを着て行った・・・
ロープ径が違う場合の連結法を教える。確保器を使ってもねじれが発生して嫌だというので、ねじれが発生しないセットを教えた。これは師匠が教えてくれたもの。
私はあまり使わないセット。カラビナが一個余分にいるから。
■ お買い物&ジム
その後、ICIへ立ち寄り、ギアを買う。PAS、エイトカン、プルージックコード、ロープクランプが必要なものだったが、PASとロープクランプは、売っていなかった。
ジムは2時からなので、ちょうど良いというので、ジムへ行き、リード壁へ取り組む。
「ここの5.9が登れるようになったら、小瀬の使用者許諾証が取れるよ」
私も最初に目指したのは、これ。目標を与えるというのは大事だ。アルパインの人だったら、でも、目標は大体同じになる。
クライミング練習したければ、人工壁は雨の日や、山に行けない日に使いたいので、使用許可証は、必ず欲しい。使用許可証を取るには、5.9がリードでき、上でトップロープの結び替えができないといけない。
彼女は娘さんがいるので二人いれば、どちらかが5.9を登れるようになって、許可証を取ればよい。
ジムへ行ったのはどうすれば、そうできるようになるか、を感じてもらうため。ジムでのリードは娘さんと経験があるようだったけれど、ビレイはあと少し経験が増えると安心だな、という感じだった。
ちょうどジムのオーナーさんがいて、お客さんも少なくて空いていたので、良かった。
■ まとめ
これで本日の研修は終了。
公園
・リードフォロー おさらい
・セカンドの確保 セカンドの確保のロック解除
・宙吊り脱出
・ビレイヤーの自己脱出
・3分の1
・懸垂おさらい
ジム
・彼女は5.8を擬似リード その他はトップロープ (4本)
・私は、5.8をリード、5.10bをトップロープ (6本)
ギア
・PAS
・エイト環
・簡易アセンダー
・プルージックコード
ロープワークは、10時からやって、14時。 このくらいかかるだろうなぁと思う。
山岳会で新人さんに向けてやるべきは、公園でのこうした練習会だと思う・・・放課後の練習みたいなものだ。
このたった一回の支出?を惜しんでいるために、いつまでたってもロープワークを覚えない人が多い。
いきなり岩へ連れて行く。すると、岩登りというものは、トップロープのことだと思い込んでしまうのだ。
昨日はよく晴れて、素晴らしい陽気だったので、十二ヶ岳の岩場や、三つ峠で同じことをやれば良かったかなぁ~と思う。
が、やっぱり公園で良かったと思う。
いきなり岩へ行きたいのは先輩側のエゴイズムだと思う。だって、岩と言うシチュエーションになった途端に、それがどんなに易しくても、血圧が上がるのが普通の山しか知らない初心者だからだ。
落ち着いてロープワークに専念できる環境で教えていないことが、テンパっている状況で、すぐ出てこないからって、怒ったって仕方ないと思う。
先輩にはツマラナクても、初めて教わる人には、何もかもが新鮮なはずだ。その一回の手間をおしんだがために、何年たっても、万年フォローしかしていないのに、それで自分はイケてる、カッコいい奴だな~とか、思ってしまう・・・。ギアをラックにぶらぶらぶら下げているだけで、そのギアつかっているの、見たことないのに。
そんな人を作らないためには、最初に、ちゃんと教えるべきことを教えてから、連れて行くべきだというのが私の意見だ。それは失敗例を根拠にした意見だ。
山岳総合センターでは、ビレイができないと岩には連れて行けない、と誰もが分かっていた。ビレイも出来ないのに、高度な山に連れて行ってはいけない。
岩に行くなら、最低限
・ビレイ
・ビレイヤーの自己脱出
はできないと困ると教え、相手が分かった、行きたいから教えてください、という気持ちになってから、というのが正しい順序であるべきだ。
ぬんちゃくを買うなど、その後でいいことだ。リードもしないのにぬんちゃくがあっても使わない。
こちらは一回目の記録。