週末は大きな山行を経験した。
山は晴れて気分が良く、時々雨の予報も曇り空程度で、降られることがなかった。肉体的な不快感はなく、山は「おいで」といざなっていた。
ところが、山はそう言っていながら、次々と予想外の試練を課してきた。
台風の後の大増水、急流、想定より深い淵、困難な徒渉、それらを避けるための髙巻きというより、大髙巻き、それに伴う懸垂、リードクライム、そうした迂回を取るためのルートファインディング、ツメで避けることのできない、激藪の藪漕ぎ・・・
それらの困難が押す時間・・・ 時間は、かなり押してしまった。標高差と距離を基に、これくらいで行けるだろうと想定した時間が、まったく役立たずだったのだった。
しかも、慣れた尾根でのブラックアウト、コンパスナビゲーション… 尾根の分岐点、下り出しでのブラックアウトは致命的だ。なんでもないところで、小一時間、ルートを失い、心理劇を多少演じた。
焦りは禁物と知りながら、心理的なプレッシャーがかかる暗闇での山。
それは、山は歓迎しているが、甘くはないよ、という意味なのか?ゆりかごで成長しなさいという意味だったのか?経験を積めと・・・。
もうワンビバーク、ということを真面目に考えた、初めての山だった。
■ たられば
遭難と遭難の手前は、ほんの少しのことだ。 ”たら、れば”、は、無用だと良く言われる。
しかし、考え付く、ありとあらゆる、”たられば”をあげておくべきだと思う。
もっとも直近から・・・
・暗くなる前に1657に着けば(尾根の出だしでルートが決定した後)で、あればルートロスせず済んだかも?
・ということは、あと10分無理を強いても粘って歩けば良かったかも?
・疲労していなかったら、10分早く歩けたかも?
・前の予想外の藪漕ぎがなければ、1時間早かったかも?
・ツメで右の尾根ではなく、左の尾根に取り付いていれば、時短したかも?
・余計な部分で遊んでいなければ、明るいうちに1657に着いたかも?
・予定通り1時間早起きしていれば、明るいうちに1657につけ、ルートロスはなかったかも?
・ちゃんと早く就寝していればよかったかも?
・歩きのペースが通常より少し遅かったのは初心者(当方)を連れていたからかも?
・ペースにはザックの重さが関係したかも?・ペースにはシャリバテが関係したかも?
・ペースには思いやりが関係したかも?
・もっとトレーニングを積んでいれば、早く歩けたかも?
■ ブラックアウト&コンパスナビ
反面、ブラックアウトした中で、ちゃんとコンパスナビができた。
こんなことは、頼んでも実行できることではない。ハッキリ言って、計画して経験できるような中身ではない。
なぜ、ちゃんと戻ってこれたのか?
・誰もパニクらなかった
・半径500mくらいの誤差では、現在地を理解していた(GPSなしでも)
・地形と沢音から、ルートロスを早い時点で認識できた
・ホワイトアウト時のコンパスナビゲーションを知っていた
・それは雪山をやるからだった
・万が一用にGPSを携帯していた
・予備電池をもっていた
・夜間登山の経験があった
・ベテランと一緒だった
・軽量化して行った
・皆、健脚者だった
・食料の予備があった
・いざとなれば、もうワンビバークも可能な宿泊装備もあった
・日ごろトレーニングがしてあり、睡眠不足でも、15時間ほどの歩行もこなせた
■ 何を学んだか?
1)暗闇でのルートロスがいかに不安か?ということ
2)ほんの小さな距離が何倍もに感じられること
3)ルートロスでは気持ちの問題が大きい
4)地図読みの山でのブラックアウトは、明瞭な点まで行ってからでないと危険。
5)暗闇ではルートファインディングは基本的にできない
まるで、新田次郎の小説の登場人物になったかのような気分がした(笑)。
(笑)と書いていられるのは、無事帰ってこれたから、で、実は (笑)なんて書いている余裕はない。
そりゃ~必死だった。逆に言えば、ピークの能力では、こういう困難が切り抜けられるということだ。
今回コンパスナビに自信を付けた。
ブラックアウトした尾根の分岐点でのルート設定にも、ナビにGPSは使っていない。使ったのは現在地の同定だけで、あとはコンパスナビだ。ナビ開始からほんの少しで、ルート復帰した。
■ 反省点
たとえ、強く、担げて、トレーニング万全で、疲労がなくても、なんらかの回避不可能な理由で遅れることはある。
・・・ということは、いくら強い人でも、それに備えなくてはならない。
GPSは必携だ。
現在地を同定するには、電波が取れないところでも、正確な地図表示ができるように、地図を事前にダウンロードしておかなくてはならない。
最近、私は地図読みで、普通に山を歩けるようになったため、GPSはログ取り専用機になっており、山中でGPSの地図を確認することはほとんどないため、事前ダウンロードを怠っていた。
ただ予備の電池は持って行く。通常使わない。ログが欲しいときは、節電で機内モードにする。そうでない一般道なら、電池を切ってしまうからだ。一般道は、標高さえ分かれば、現在地を特定できる。
今回は、電池を入れた時点で電波が入り、地図を取得することができたので、現在地の同定が楽だった。
もし電波が入らなければ、座標は出るが、現在地が地図上にマッピングされないので、座標で、紙の地図上に現在地を落とし込めるスキルが必要だ。
座標でのマッピングスキル
も必要だ。以前、チャレンジしたら、座標の数値には、測地系の違いで値が異なり、良く分からないなと済ませてしまった。再確認が必要だ。
■ 良かったこと
今回、最後の最後までGPSは出さなかったこと。
15時間、歩けたこと。
ストレスがかかった状態で、互いの様子や弱点が確認できたこと。
いつも、良い子の山時間ばかりでは、経験が積めないこと、が分かった。
が、経験を積むには?
遭難未遂を敢えて冒すと言うことは、基本的にないわけなので、やはり貴重な経験なのだということだった。
迷ったのはほんの標高差50m程度 |